重要判例解説(5);最高裁判所平成22年1月26日判決

1 事案
A(大正12年生)は,平成15年10月,変形性脊椎症や腎不全等で,Y(被告・被控訴人・上告人)が経営するB病院外科に入院した。
同年10月22日から11月5日にかけて,Aはせん妄(意識混濁に加えて幻覚や錯覚が見られるような状態)を発症した。
11月4日,Aはナースコールを繰り返し,転倒した。
11月15日,午後9時の消灯前から頻繁にナースコールを繰り返し,おむつの
交換を要求した。Aのこの行動は消灯後も続き,午後10時過ぎに車いすで看護師の詰所を訪れた上でおむつの交換を訴えるなどした。看護師らは,その都度,Aを病室に連れ戻し,汚れていなくてもおむつを交換するなどの対応をした。なお,腎不全で入院しているAの腎臓への影響を考えて,向精神剤の服用は避けられていた。
11月16日午前1時ころにも,Aは看護師の詰め所に訪れて,車いすから立ち上がろうとして大声を出した。看護師らはAがこの行動を繰り返した末に転倒することを恐れ,Aをベッドと共に詰所に近い個室の病室へと移動させた。
看護師らはAを落ち着かせようとしたが,Aの興奮は一向に収まらずベッドから起き上がろうとする動作を繰り返した。そこで,看護師らは,Aの右手をベッド右側の柵に,左手をベッド左側の柵に,それぞれミトン(指を個別に包むのではなくまとめて包む形状の手袋に,ひもがついている抑制具。患者が暴れたり,その際に爪で自らを傷つけたりといった状況を防止する等の目的で使用される)でつないだ。
Aは紐をかじって片方のミトンを外すなど抑制から逃れようとしていたが,やがて眠りについた。看護師らは,何度かAの病室を伺い,入眠を確認した午前3時ころにはもう片方のミトンを外し,明け方にはAを元の病室に戻した。このとき,Aには,ミトンを外そうとした際についたとおぼしき,右手首皮下出血及び下唇擦過傷が見られた。
その数日後の11月21日,Aは,C市民病院で腎不全の治療を受けるためにB病院を退院した。
平成16年11月1日,AはYに対し,Aに対して不要な身体拘束を行ったことやそのことについて親族への説明がされていなかったこと等が不法行為ないし診療契約における義務違反であるとして,慰謝料600万円の支払を求める訴訟を提起した。 
なお,Aは第1審口頭弁論終結後の平成18年9月8日に死亡したため,Aの子
Xら(原告・控訴人・被上告人)2名が権利を承継した。
 第1審(名古屋地一宮支判平成18年9月13日)は,Aの転倒・転落の危険性が切迫した現実的なものとして存在し,本件の抑制行為はその危険を回避するための必要かつ最小限な手段だったとして,請求を棄却した。
 原審(名古屋高判平成20年9月5日)は,Aの挙動に危険性はなかったと判断して,抑制行為の必要はなかったとした。その上で,抑制以外の対応が奏功しなかったのは看護師らの対応が不十分であったためであること,Aは傷害を負っていることから抑制の態様も軽微とは言えないと述べた。また,抑制行為は医師が関与すべき行為であり医師の判断を得ずにこれを行った点も違法であるとした。その結果,慰謝料50万円,弁護士費用20万円の計70万円の支払をYに命じた。

2 判旨
破棄自判、控訴棄却。
「Aは,せん妄の状態で,・・・当時80歳という高齢であって,4か月前に他病院で転倒して恥骨を骨折したことがあり,本件病院でも,10日ほど前に,・・・転倒したことがあった」。「本件抑制行為当時,せん妄の状態で興奮したAが,歩行中に転倒したりベッドから転落したりして骨折等の重大な傷害を負う危険性は極めて高かった・・・」。「看護師らは,約4時間にもわたって,・・・落ち着かせようと努めたにもかかわらず,Aの興奮状態は一向に収まらなかったというのであるから,看護師がその後更に付き添うことでAの状態が好転したとは考え難い上」「深夜,長時間にわたり,看護師のうち1名がAに付きっきりで対応することは困難であった」。「Aは腎不全の診断を受けており,薬効の強い向精神薬を服用させることは危険であると判断されたのであって,これらのことからすれば,本件抑制行為当時,他にAの転倒,転落の危険を防止する適切な代替方法はなかった」。「本件抑制行為の態様は,ミトンを使用して両上肢をベッドに固定するというものであるところ,・・・拘束時間は約2時間にすぎなかったというのであるから,本件抑制行為は,当時のAの状態等に照らし,その転倒,転落の危険を防止するため必要最小限度のものであった」。
「入院患者の身体を抑制することは,その患者の受傷を防止するなどのために必要やむを得ないと認められる事情がある場合にのみ許容されるべきものであるが,・・・本件抑制行為は」「看護師らが,転倒,転落によりAが重大な傷害を負う危険を避けるため緊急やむを得ず行った行為であって,診療契約上の義務に違反するものではなく,不法行為法上違法であるということもできない」。「Aの右手首皮下出血等が,同人が口でミトンを外そうとした際に生じたものであったとしても,上記判断に影響を及ぼすものではなく,・・・看護師らが事前に当直医の判断を経なかったことをもって違法とする根拠を見いだすことはできない」。

3 解説
本件判決は,本件の事情の下で,せん妄状態のAが転倒・転落によって骨折などの重大な傷害を負う可能性が高かったと認定した上で,その危険を回避するための方法として本件の抑制行為は必要かつ最小限のものであったとしたものである。

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