重要判例解説(9);最高裁判所平成22年3月16日判決

1 事案
X(原告・被控訴人・上告人)は平成2年6月から平成11年6月29日までの間,Y(被告・控訴人・被上告人)において常務取締役を勤めた。
平成11年6月29日,Yは,同日開催の定時株主総会において,XにYの退職慰労金の算定基準等を定めた内規(以下,「本件内規」)に従って相当額の範囲内で退職慰労金を贈呈すること,その具体的金額等は取締役会に一任することについて決議した。Y代表取締役は,本件内規に従い,Xへ支給する退職慰労一時金の額を5683万円,退職慰労年金(以下,「本件退職慰労年金」)を月額13万3000円(支給期間は平成13年3月から20年間)とした。
Yは,Xに対し,一時金を支給し,また,本件退職慰労年金のうち平成13年3月分から同16年4月分までを支給してきた。その後,Yは,平成10年度に約314億円に上る不良債権額を抱えるなどしたことから,400億円の公的資金の投入を受けた。平成15年8~9月,Yは,元取締役ら(X含む)に対して,退職慰労年金の支給を停止せざるをえなくなった旨説明し,Xを除いた大半の者から同意を得た。
平成16年4月12日,Yは,取締役会において,本件内規の改定し,退職慰労年金制度を廃止(一時金に一本化)する旨を決議した。そして,同年5月以降,Xへの本件退職慰労年金の支給を打ち切った。
これを受けて,Xは,Yに,本件慰労退職年金の身支給分の支払いなどを求めて訴えを提起した。
第1審(東京地判平成20年5月22日)はXの請求を認容したが,原審(東京高判平成21年3月19日)は棄却した。
X上告。Yは,①退職慰労年金における集団性画一性などの制度的要請から,一定の場合には退任取締役の同意なく契約内容を変更することが許される,②Xが取締役に就任した際の委任契約において,本件内規の廃止後は退職慰労年金が支給されていないことが黙示的に契約の内容となっていた,③事情変更の原則によりXに対する退職慰労年金の支給打ち切りが許されるなどと主張して,Xの請求を争った。

2 判旨
原判決破棄,原審へ差戻し。
「Yの取締役に対する退職慰労年金は,取締役の職務執行の対価として支給される趣旨を含むものと解されるから,会社法361条1項にいう報酬等に当たる。本件内規に従って決定された退職慰労年金が支給される場合であっても,取締役が退任により当然に本件内規に基づき退職慰労年金債権を取得することはなく,Yの株主総会決議による個別の判断を経て初めて,Yと退任取締役との間で退職慰労年金の支給についての契約が成立し,当該退任取締役が具体的な退職慰労年金債権を取得するに至るものである。Yが,内規により退任役員に対して支給すべき退職慰労金の算定基準等を定めているからといって,異なる時期に退任する取締役相互間についてまで画一的に退職慰労年金の支給の可否,金額等を決定することが予定されているものではなく,退職慰労年金の支給につき,退任取締役相互間の公平を図るために,いったん成立した契約の効力を否定してまで集団的,画一的な処理を図ることが制度上要請されているとみることはできない。退任取締役がYの株主総会決議による個別の判断を経て具体的な退職慰労年金債権を取得したものである以上,その支給期間が長期にわたり,その間に社会経済情勢等が変化し得ることや,その後の本件内規の改廃により将来退任する取締役との間に不公平が生ずるおそれがあることなどを勘案しても,退職慰労年金については,上記のような集団的,画一的処理が制度上要請されているという理由のみから,本件内規の廃止の効力を既に退任した取締役に及ぼすことは許されず,その同意なく上記退職慰労年金債権を失わせることはできないと解するのが相当である。」

3 解説
本件判決は,退職慰労年金が「報酬等」に当たるとした上で,退職慰労年金の支給は取締役会との契約によって定められるものであり,これについて定めた内規があったとしてもそれによって当然に生じるものではないとした。
そして,取締役会との個別の契約で既に退職慰労年金債権が生じている以上,その後の本件内規の改訂・廃止によってその内容が変更されるものではないとしたのである。

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